桑寄生

昔、お金持ちの家の子供がリュウマチになりました。
腰や膝が痛く、歩くのがとても困難でした。
お金持ちの家の主は、南山の古くからある薬用植物を育てる農家の人に見て貰いました。
そのあと、2日に1回、主の雇い人を派遣して薬をとりに行かせました。
真冬だったので、派遣された人は寒さで震え、手足はこごえました。
彼は村はずれの道脇の古い桑の木の上の空洞に一つの枝が出でいて、それがいつも受け取りに入っている生薬にとても良く似ていました。
そこで、悪知恵を働かせて、木に登ってそれをとり、細切れにして紙にくるんで持ち帰り、主人に渡しました。
雇われ人は、それからはいつもその方法を使いました。
なんと言う事でしょう。そのお金持ちの家の子供の病気が治ってしまったのです。
雇われ人はその事を薬用植物を育てている農家の人に話しました。
農家の人は別な人に試してみると、本当にリュウマチが治ってしまいました。
この木は桑の木の上に生えているので「桑寄生」と名付けられました。

桑寄生は中医学ではリュウマチに良いだけでなく肝と腎を補い、筋骨を強め、安胎の作用があるとされています。

紫蘇

あるとき、華佗(中国では有名なお医者さんです)が河辺で薬草をとっていると、一匹のカワウソが大きな魚を捕まえるのを見かけました。
カワウソは河から上がると岸辺でその魚をまるごと飲み込んでしまいました。
お腹は太鼓のようになってしまい、カワウソは苦しくてたまりません。
カワウソは紫色の草が生えているのを見つけると、そこまで這っていきました。
そして、その草を食べてしばらくするとまるで何事もなかったかのように帰って行きました。
この草は紫色をしていて、食べるとお腹が舒服(気持ちよいという意味)になるので華佗はこの草を「紫舒」と名付けました。
ですが、どういう訳かその後の人たちはこれを「紫蘇」とも呼ぶようになりました

女貞子

言い伝えによれば、秦・漢の時代に浙江省に1人の身分の高い人がいました。
彼には1人の娘がいました。
その娘は年頃で、とても容姿端麗でした。そして芸術的なセンスも抜群でした。
父親は目に入れても痛くない程、可愛がっていました。
その娘に求婚する人はあとが立ちません。
父親は貪欲な人で、自分の地位の確保の為、県知事との結婚を約束してしまいました。
実は娘は、町の学校の先生と恋仲で一生のちぎりを結んでいました。
勿論、父親はそんな事は知りません。
娘は父親をうらんで壁に頭をぶつけて自殺してしまいました。
町の先生はそれを知り、ショックのあまり病気になってしまいました。
数日で体はやせこけて、頭髪は真っ白になってしまいました。
数年後、先生はその娘の墓の前で首をくくろうとしました。
その時、墓の土の上に1本の木が生えているのを見つけました。
葉は生い茂り、果実はまるで黒髪のように黒いものでした。
先生はその実をつんで口に入れました。
そうすると、たちまち元気になりました。
そこで、毎日その実をつんで食べると、今までの病かがすっかり良くなりました。

蒲公英

昔、洛陽に一人の娘がすんでいました。
彼女は頭もよく、とても美人でした。
ある日、その娘は乳腺炎になってしまいました。
腫れて痛みがひどく、我慢が出来ません。
しかたなく、一人の旅の医者に治療を頼みました。
旅の医者はその娘がとても綺麗だったので、邪念をおこしました。
娘は我慢できず、平手打ちを2発、くらわせました。
そこで旅の医者は「まだ結婚していない娘が乳腺炎になるのはおかしい。きっと道徳にはずれた行いをしているに違いない。」とあたりにデマをふりまきました。
娘は弁解する事も出来ず、河に身を投げました。
そこに蒲という名の漁師のおじいさんが通りかかり、娘を救いました。
漁師は事の顛末を聞き、公英という名前の自分の子供に、ある薬草をとりに行かせました。
漁師はその薬草を自ら漬いて娘に渡して、娘に湿布するように言いました。
数日して娘の乳腺炎は良くなりました。
娘は自分の庭にその薬草をうえ、感謝の気持ちでその薬草を「蒲公英」と呼びました。

決明子

伝説によれば、中国の陝西省の竜山という所に1人の年老いた道士が住んでいました。
彼は100歳を過ぎてもなお精力にあふれていて、髪の毛もふさふさとして、顔も若々しいままです。
耳はよく聞こえ、目は十里先までよく見渡せるという事です。
人々は、道士に秘密をききました。
道士が言うには「それは決明子のためだ。決明子を粉にしてスプーン1杯、1年間のみなさい。」と。
竜山の人たちは、道士の言うとおり決明子を服用すると、皆目がよく見えるようになり、眼病を患っていた人たちも全部よくなりました。
今でも中国の江南では家庭の庭に決明子を植える習慣があります。
毎年初夏に決明の苗がすくすくと育つ時期にこれを摘んで食べています。

蛇床子

昔、ある村である種の怪病が流行しました。
病人は全身の皮膚に吹き出物が出来て痒くてたまらないというものです。
あるお医者さんが言いました「ある島に傘の形をした白い花をつけ、羽毛のような葉っぱの薬草がある。
その実を煎じて患部を洗うと病気が治る。」と。
ただその島には沢山の毒蛇が這い回っていて薬草をとるのは容易ではありません。
ある青年が身を挺してその島に向かいました。
硫黄酒を携えて端午の節句の時に島に上陸して、毒蛇を退治しました。
青年は薬草をもって返り、沢山の仲間の病気を治しました。
この薬草は蛇がよこたわっていた下から採集されたので「蛇床」と呼び、その種を「蛇床子」と呼ぶようになりました。

金銭草

昔、昔。あるところに、仲むつまじい1組の夫婦がいました。
ある日、夫が突然に病に倒れて死んでしまいました。
妻は医者を呼んで夫の死因を調べてもらいました。
医者は、原因はお腹にあると言って、お腹から胆石を取り出しました。
妻は亡くなった夫の思い出にと、その胆石を網の袋に入れて首から提げていました。
有るとき、妻はその胆石がとても小さくなっているのに気が付き、医者に理由を尋ねました。
医者は「たぶん、山で仕事をしている時に石が小さくなるような薬草に触っているのではないか?」と言いました。
そこで医者と妻は二人で山に登り、妻がいつも柴かりをしている場所に生えている草をいくつも持ち帰り、試しに胆石をくるんでみました。
果たして、その中の1つの草を使うと胆石が小さくなりました。
医者はその薬草を使って沢山の人の結石病を治しました。
人々は、この薬草は凄いものだと思い、金銭よりも価値があると「金銭草」と名付けました。
金銭草の葉っぱは銅銭に似ているので、それも名前の由来になっていると思われます。

更上一層楼

私がとっても好きな言葉です。
もともとの意味は、「登鸛雀楼」という漢詩から来ています。

「登鸛雀楼」は中国・唐の詩人「王之渙」という人の作品です。

白日依山尽
黄河入海流
慾窮千里目
更上一層楼

白日は山に依って尽き
黄河は海に入って流れ
千里の目を窮めんと欲し
更に楼の一層を上る

作者は鸛雀楼という建物に登って景色を見ている。
太陽が山に沈んでいく、そして足下から黄河が海に向かって流れていく。
きっと黄河の水は海の中ですぐに海水とは交わらず、一筋の道となってさらに海の向こうに流れていくはずだ。
それを見てみたい。もっと遠くを見てみたい。千里の向こうまで見渡したい。
そうだ、それにはもう一階上に登ってみる事にしよう。

遠くまで見渡すなら、もっと上に登る必要がある。
これは表面的な意味だけではなく、「物事を広く識るためには、努力して自分が向上する必要がある。努力して自分が向上すれば、自然と広い視野で周りを見渡せる」という意味です。

この詩には直接は詠われていないですが、恐らく黄河は夕日に染められてキラキラと輝いているはずです。

これと良く似た言葉で「芝麻開花、節節高」という言葉があります。
ゴマの花が開く時、どんどんと節が上に伸びて花が咲くという意味です。
そしてそれは自分たちが成長していく様子を表現しています。
「活到老、学到老」。
生きている限り、常に勉強。
老中医の精神で頑張りたいと思っています。

卵細胞の分割と中心体

細胞が分裂するときに、まず染色体が2つに分かれます。細胞の中には中心体があります。
2個の中心体から糸のようなものがのびて、各染色体を両側に引っ張ります。(中心体から糸がのびたものを星状体といいます)
染色体が中心体に引き寄せられて細胞の両側に並ぶと、中央で細胞が分裂して2個の細胞になります。
この中心体は細胞の分裂に必要なものと考えられますが、実は受精していない卵子には中心体はありません。
では、中心体は何処からくるのかというと、精子が持ってくるのです。
ところが精子の中には中心体が不完全なものがあります。
中心体が不完全な精子は、6000倍の顕微鏡でみると、精子の頚部が太くなっています。
正常な精子では星状体の出現率は82%であるのに、頚部が太くなった精子は17%と非常に低い出現率になります。
星状体は、細胞分裂を開始したときに中心体が変化するもので星状体の出現は細胞分裂が開始されたという意味になります。
体外や顕微の時に、卵の質ばかり重視されますが、精子の質や免疫のバランスもとても大切です。
採卵した卵は悪くないのに、いつも分割がとまってしまう場合は、精子の質も考えてみると良いでしょう。

多嚢胞性卵巣

生理不順で病院にかかって、多嚢胞性卵巣と診断される方が多くあります。
病院の場合は、妊娠希望の場合は排卵誘発剤、妊娠希望でない場合はホルモン剤で生理をおこす方法になります。
どちらも即効性はありますが、多嚢胞性卵巣そのものを治しているとは言えません。
漢方で多嚢胞性卵巣は卵巣に汚れがたまり卵巣が固くなっている状態と考えます。
ですから、卵巣の汚れを綺麗にして卵巣を柔らかくするような方法を考えます。
このようにすると、多くの方が自然に排卵するようになってきます。

ある人の例です。
10代のころから、少量の出血が半月以上つづいていたそうです。
20才になってからはずっとピルを服用していて、クロミッドを飲まないと排卵しない状態でした。

血液検査では
プロラクチン  刺激前 14.9  刺激後  230
LH      刺激前  8.2  刺激後  41.9
FSH     刺激前  6.5  刺激後  10.3
との事です。
刺激後のプロラクチンとLHがかなり高いようです。

体に溜まっているものを出してくれるような漢方や『気』の流れを改善する漢方などをおすすめしました。
漢方を服用して2ヶ月。排卵誘発剤を使わないで体温が上がり、14日ほどで生理が来て体温が下がりました。
今はお医者さんには行っていないので、確実に排卵したかは解りません。
ただ基礎体温的にはまず排卵したと思われます。

卵胞と卵について。

卵胞と卵(卵子)を混同されてみえる方も結構あるので、ちょっと説明しておきます。
卵巣の中で膨らんできて排卵前に20mmくらいになるのは卵ではなく卵胞です。
卵胞は卵を入れる袋のようなものです。
卵胞の中は栄養がつまった液体で満たされています。
卵胞が急激に大きくなるのは細胞が育つからと言うより、中の液体が増えるからです。
卵は0.17mmくらいの大きさです。
これは小さすぎて超音波ではうつりません。
卵胞のへりにこびりついてきて、排卵前に浮き上がって、排卵時には卵胞液とともに卵胞外に排出されます。
排出された卵は、卵管の先端部、卵管采にとりこまれ卵管内で受精します。
一方、卵を排出した卵胞はしぼんで黄体に変わります。
黄体からは黄体ホルモンが分泌され、内膜を着床に適した状態にしていきます。
卵胞の状態が良いと卵の状態も良い事が多いのですが、必ずしも卵胞の質と、卵の質が同じとは限りません。
採卵の時に小さい卵胞からとれた卵が意外に質がよかったりする事もあります。
ただ、卵胞液の状態が悪いと卵子の質を悪くする可能性はあります。
特に、糖質のとりすぎは卵胞液の中の糖を多くして卵子の糖化を起こす可能性があります。

邪実について

邪実とは、体内に余分なものがあり、それが病気の原因となっている事です。
また、今は病気まではいかなくても将来的に病気の原因になる可能性がある場合も含みます。
邪実は一般的には「外因」「内因」「不内外因」があります。
外因は六因とも言い、「風、寒、暑、湿、燥、火」をさします。
内因は六鬱とも言い「気鬱、血鬱、痰鬱、湿鬱、食鬱、火鬱」です。
不内外因は、食事の不摂生、過労、運動不足などです。
さて、過労、運動不足、食事の不足などは邪実とはいいません。
そうすると、食事の不摂生は食滞と考えます。これは食鬱と同じ意味になります。
外因は外からやってくる邪気で急性病に多いものです。
ただ、このブログで以前のべたように宿邪(伏邪)として体内に長く居座る場合があり、内因と外因の明確な区別は必要ありません。

そうすると、邪気は次のように整理されます。

目に見えない邪気
風(風寒 風熱) 寒凝 気滞 火 燥
目に見える邪気
瘀血 食滞 痰 湿 湿熱

まず、この10種類の邪気が体内にあるかどうかを先に判断します。
何故なら、邪気の種類によって辨証論治(病気の判断や治療)の方法がかわってくるからです。

中国医学豆知識 左は血、右は気・水

左右の脈を比べてみると、左の脈が弱い事が多いようです。
これは心臓が左がわにある事に起因しています。
ちょっと考えると、左の方が心臓に近いので脈は強くなりそうです。
しかし、左は心臓から出た血液が急カーブで左手に流れていきます。
これに対して右手へ行く血管のカーブは緩やかなので、右手の方が血流がよくなる事が多いのです。
このように、「血」にかかわる部分は左に症状が出やすいのです。
ですから、中国医学は「左は血」と考えます。
中国医学的に左の脈が弱い場合は、「血虚」の場合と「瘀血」の場合があります。
どちらの場合も血液の流れが悪くなるので、まず左に症状が出やすいのです。

中国医学豆知識 血虚と貧血

中国医学では、血の不足を血虚といいます。
この血虚は貧血と似ているけども違いがあります。
貧血は、血液を採血して、その成分が濃いか薄いかをみるものです。
血液が濃くても量が少ない場合もあります。
また血液が薄くても量が多い場合もあります。
血虚とは、血液の量が少ない事を言います。
血液の量は、血流計などを使って1分間の血流量を量る事である程度推測出来ます。
また、慣れてくると、望診(顔色、舌の色、つめの色)や脈診で血虚があるかないか判断出来るようになります。
貧血がある人でも、血液の量が多い場合は血虚の症状はあまり現れません。
逆に貧血とは言われなくても血液の量が少ない時は血虚の症状が出て来ます。
ですので、体にとっては貧血よりも血虚を重視した方が良いのですが、貧血が数値で出る客観的な指標にたいして、血虚は中医師の判断にゆだねられます。
このため判断にバラツキが出てしまうのが難点です。

季節による加減

中国の明の時代の奇効良方という本の四物湯の所に季節による加減がのっています。
面白いのでご紹介します。
春 川きゅうを2倍にする。必要におうじて防風を加え防風四物湯とする。
  春は脉が弦になり、頭痛がよく起こる。
夏 芍薬を2倍にする。必要に応じて黄岑を加え黄岑四物湯とする。
  夏は脉が洪になり、下痢がよく起こる。
秋 地黄を2倍にする。必要に応じて天門冬を加え門冬四物湯とする。
  秋は脉が沈澀で血虚となる。
冬 当帰を2倍にする。必要に応じて桂枝を加えて桂枝四物湯とする。
 冬は脉が沈となり、寒くて食べられなくなる。

脉は季節に応じて変化します。ここにある四季の脉はみな標準的な脉です。
今は暖冷房が完備しているので季節による加減はあまり行われなくなりました。
それでも人間の体は四季に応じて変化しています。
ですので、季節を考えて漢方を選んでいく事はやはり必要です。

中国語と日本語

中国語と日本語、漢字を見ていると何となく意味が分かるのですが、食い違う部分がよくあります。
えっ!と思う事をいくつかあげてみます。

手紙 トイレットペーパー(衛生紙とも言う) 日本の手紙は信
湯   粘度の少ないスープ (粘度の高いものは羹という) 日本語の湯は開水
新聞  ニュース  日本語の新聞は報
娘   お母さん   日本語の娘は姑娘
裏   内側    日本語の裏は背面 建物の裏側は后面
愛人   奥さん、またはご主人  日本語の愛人は情人
丈夫  ご主人  日本語の丈夫は堅固
大事  おおきな事件。大切の意味はない。  日本語の大切は愛惜
下流  川の下流以外に、卑しい、下品の意味がある。
工夫  暇とか時間。 日本語の工夫は研究
好容易   字を見ると、「とっても簡単」と翻訳しそうですが、実は真逆で「やっとの事で」の意味。ただし、文末に好容易が来る場合は「簡単なもんだ!」の意味になってしまう。
好不容易  好容易の否定形と思いきや、意味は好容易と同じで「やっとの事で」の意味。文末に好不容易がくると、「すごく大変だったぞ!」の意味。

意味が通じないならまだ良いのですが、誤解を招く恐れがあるので要注意です。

漢方の効能効果

以前、このブログで、今の漢方の効能効果は、いわゆる日本式の漢方に基づいて決められていて、中医学(中国の漢方)の考え方は取り入れられていないという事をお話ししました。
今回はもうすこしこのあたりの経緯を説明します。
1970年に大塚敬節などが日本での漢方の基準を作るため「漢方打ち合わせ会」をつくり、比較的良く使われる346処方を選びました。
1971年に中央薬事審議会は他の団体の意見を含め、この中から210処方をしぼりこみ、成分、分量、用法、用量、効能、効果を決めました。
これを決める時に参考にされたのが「漢方診療の実際」や「漢方診療医典」といった日本漢方のバイブル的な本です。
漢方を知らない人でも理解出来るように、日本漢方での「実」は「比較的体力があり」という表現になりました。
大変に残念なのが日中の国交の回復がその翌年の1972年である事です。
日中の国交の回復とともに、沢山の中国の本が日本に輸入されるようになりました。
その中には中医学の本が沢山ありました。
今まで、日本の漢方しか知らなかった人たちは、中医学の理路整然とした考え方に唖然としました。
私も目からウロコの状態で、今まで35年も中医学を勉強しています。
そして、本当に残念なのが今の日本の漢方では中医学の理論が取り入れられていない事です。
医薬品の効能効果は1回決まってしまうと変えるのがとても困難です。
もう少し日中の国交回復が早ければ、今の漢方の効能効果にも中医学の考え方が盛り込まれていたと思うと、とても残念です。

漢方を飲む時間

漢方を飲む時間

7月 27th, 2012

最近、よく質問される事として漢方薬を飲む時間があります。
いつ飲むのが良いのか、どの時間に飲むと効果的かという事です。
その前に、まず、はっきりと理解していただきたいのは、特殊な場合を除いて、飲む時間はあまり重要ではないという事です。
それより大切なのが、ちゃんと飲む事です。
例えば食前に飲む予定が飲み忘れてそのままになってしまう。
これではせっかくの漢方薬は何にもなりません。
まず、時間にこだわらず決められた回数、決められた量を飲む事です。
毎日、忘れずにちゃんと飲めて、さらに時間にも余裕がある場合、それから時間にこだわって下さい。

一般的には空腹時の飲むと、一気に吸収されます。
ただし、効いている時間は短くなります。
食後に飲むとゆっくりと吸収されます。
この場合、効いている時間は長くなります。
ですので結局は同じ事になります。
ただ、もし風邪などの場合とか、頭痛がひどいなど、今すぐに治したいという場合は空腹時に飲みます。
これに対して、長期間飲む体質改善などの場合は、空腹時でも食後でもあまり大きな差はありません。
ただし、「なんとなく効いている感じ」というのは空腹時の方があると思います。
これに対して胃が弱い場合などは食後に飲むようにするといいでしょう。
これとは別に、補腎薬などは寝る前に飲むと効果があります。
ホルモンの分泌は寝ている間に多くなります。
ですのでホルモンの分泌を助けるような補腎薬は寝る前が効果的なのです。

冷えの改善と暖める事

よく冷え症の人が、体が冷えないように何枚も靴下をはいたり、カイロをいくつも体にはっています。
勿論、体温を維持していく事は必要な事です。
しかし、たいして体が冷えていないのにいつも厚着でいたり、カイロを貼る人があります。
その事が冷えの改善につながると思い込んでいる人もあります。
しかし厚着は決して体質改善にはなりません。
もともと、人間の体は体温を一定に保とうとする働きがあります。
もし常に厚着をしていたりカイロを沢山はっていたら、この働きが弱くなってしまい自分で熱を作りにくくなってしまいます。
これでは体質改善どころか、逆効果になります。
寒い時でも少し薄着になって運動する事は大切です。
熱をつくるには酸素が必要です。
酸素を取り込むには運動が効果的です。
過度の運動はおすすめしませんが、ある程度の代謝を維持するために運動は不可欠です。
冬の寒い時、雪合戦をした後、指がじんじんとしますがその後、不思議とポカポカしたのを覚えていませんか?
勿論、あまりやせがまんして体調を壊しては困ります。
少しずつ、寒さに慣らす感じで体を鍛えて見て下さい。

筋・肌について

中国で一般的に使われている中医学の用語と、日本語では微妙な食い違いがあります。
例えば中医学でいう「筋」。
これは日本語の筋肉の意味ではありません。
「筋」は、日本語の「すじ」に近いものです。
現代医学でいう所の「腱」とか「神経」「筋膜」などをさしています。
肌は、日本でいう所の皮膚ではなくて、「筋肉」を意味します。
中国語では肌肉と肌は同じ。どちらも日本語の筋肉(きんにく)を意味します。
例えば日本語の上腕二頭筋は、中国語では上腕二頭肌となります。

この筋と肌の意味の違いが分からないと、大きな間違いをしてしまいます。
例えば中医学では「肝は筋を司る」と言います。
ここで筋を筋肉ととらえて、筋肉の病気を肝と考えると間違えてしまいます。
この場合の筋は、運動神経に近いものです。
特に、錐体外路系の障害などは肝と関わりが深いものです。
「脾は肌を司る」
脾は胃腸の消化吸収ですから、胃腸の働きが良く成ると皮膚が綺麗になる...という事ではありません。
このの肌は筋肉ですから、筋肉の萎縮などは脾虚と関係があるよ、という意味になります。
このように中国語と日本語で微妙に意味が違う場合、特に注意が必要です。

胃腸が弱い人の正しい水分の取り方

夏は汗などをかき、体内の水分が不足気味になります。
ですので、適度に水分をとる事はとても大切な事です。
ただ、いくつかの点に注意して下さい。

食事の時の水分は控えめにする。
特に冷たいものはなるべく控える。

水分を多くとると、胃酸が薄まってしまいます。
胃酸は食べたものを殺菌するだけでなく、タンパク分解酵素の働きを活性化します。
このため、胃酸が薄まると、魚、肉などのタンパク質の消化力が悪くなります。
普段から胃酸が多い人は問題ありませんが、胃酸の分泌が悪い人は極力、食事中の水は少なめにします。
また、食事の時に冷たいものを多くとると、胃腸の温度が下がってしまいます。
胃腸の温度が下がると、消化酵素の働きが低下して、これまた消化力が悪くなります。

おすすめの方法は
水分は食事の前後以外の時間に、あまり大量でなくこまめにとる。
食事の時は、夏はクーラーをかけても良いので、熱いお茶などで食事をする。
熱いお茶ですと、そうがぶ飲み出来ないので、胃酸が薄まる事もあまりありません。

普段から胃腸が弱くなかなか太れないという方は、気をつけてみてください。

糖質制限は何故痩せるか?

糖質(ご飯、パン、麺、甘い物)はエネルギー源としては、とても利用しやすいものです。
これに対してタンパク質や脂肪は、糖質に比べて燃えにくい性質があります。
ですので、体は、まず糖質から燃やそうとします。
糖質とタンパク質、脂質では、分解酵素も代謝経路も違います。
もし糖質依存の体質になっているとタンパク質や脂肪の代謝が悪くなってしまいます。
糖質依存の人は糖質が不足すると、血糖値が下がり、お腹が空きます。
この時に一番食べたくなるのが甘い物です。
甘い物を食べると一気に血糖値が上がります。
血糖が上がると大量のインスリンが分泌されて、また血糖は急降下します。
そして甘い物が欲しくなる。
糖質は簡単に脂肪に変わります。
これが肥満者時計というメカニズムです。
食後に眠くなり、空腹時にイライラするような人は完全に糖質依存の食生活になっていますので注意が必要です。
このような人は、夜だけでも糖質をとらないようにすると良いでしょう。
血糖値が下がるとイライラしますが、この状態で少し我慢すると脂肪が分解して遊離脂肪酸が出て来ます。
そうすると、空腹感は不思議とおさまります。
この状態は脂肪の代謝が良くなっている状態で血糖値も安定しています。
ダイエットの秘訣はカロリーではなくて、いかに血糖値を安定させるかにあります。
ぜひ、頑張って見て下さい。

運動について

運動について
よく運動についての質問をされる事があります。
運動については、大まかに4種類あります。

1.脂肪を燃やす運動
ジョギングなど、有酸素運動です。
メタボ気味の方には有効です。
血流を改善したり、免疫力を高める作用もあります。

2.筋肉をつける運動
冷え性気味の人や、血が不足している人に向いています。
まず、たんばく質(肉、魚、豆、乳製品、卵など)を十分にとります。
タンパク質は分解されるまで時間がかかります。
食後2時間くらいしてから運動を始めます。
運動の種類としては、力を入れる運動です。
腹筋、腕立て、壁押し、ぶら下がりなどです。
時間は短めで、例えば5分くらいから始めれば良いでしょう。
次の日に軽い筋肉痛になるくらいが良いと言われていますが、そこまでやらなくても効果はあります。

3.心肺機能を高める運動です。
全力疾走とか、全力でジャンプするなどです。
この運動は、あまり無理しないで必要に応じて行うと良いでしょう。

4.ストレッチ
消費カロリーは少ないですが、体をやわらかくしたり、血流の改善に良い運動です。
室内でも手軽にできるし、終わったあとの爽快感もあります。
中医学的には気の流れをよくします。
ヨガや気功はストレッチに近いものと言えます。

例えば、不妊症などで冷えがあり、痩せている方などは1の運動よりは4や2の運動を心掛けて下さい。

体力があるかないか...について

漢方の効能効果の所に「比較的体力があり...」とか「体力中等度以下で.....」とか、「体力虚弱で...」とか書かれています。
しかし、この表現はあまり正しいとは思えません。
日本漢方では体力のある人を実証、体力の無い人を虚証といます。
そして、この漢方薬は実証向けだから、君には合わないとか、君は虚証だからこの漢方が合うといった言い方をしています。
しかし、中医学では、実は邪実で、邪気がたまったものです。
正気がたまった場合は、体力はあっても病気にはなりません。
邪気は病気の原因になりますから、邪実の場合は邪気をとる漢方薬を使います。
これを瀉剤といっています。
日本漢方では殆どの瀉剤には「比較的体力があり」と記載されています。
しかし、体力が無い人にも邪気はたまります。
中医学の用語でも「邪のある所、その気必ず虚する」というものがあります。
つまり正気の不足があるから、邪気がつけこんで入ってくるのだという事です。
もし正気が充分なら、邪気を跳ね返す力があるはずです。
(よほど強力な邪気は別です)
この事から、体力が無い人にも瀉剤が必要な事はよくあります。
ですから、体力が無い人にも「比較的体力があり」と記載されている、例えば桂枝茯苓丸などが必要な事はよくあります。
ただし、瀉剤は補う力がありません。
正気の不足がある場合は、正気の不足を補う必要があります。
このような処方は補剤といわれます。
補剤には「体力虚弱で」と記載されています。
一般的に病気の人は、先ほども言ったように、邪気の存在(実)と正気の不足(虚)が混在している事が多いのです。
つまり、日本漢方式に考えると「比較的体力がある」ものと「体力虚弱で」という2つの処方を同時に使う事になります。
どうしてこのようになってしまったのかというと、効能効果が決められた時にはまだ中国との国交がなくて、正しい中医学が日本に入って来ていなかったからなのです。
今は、中国との国交もあり、正しい中医学がどんどんと日本に入って来ています。
古い日本漢方式の表現だけしか書かれていない漢方薬の効能効果は時代遅れのものになってしまったと思われます。

漢方は即効性があるかについて

漢方は即効性があるかどうか、昔から色々と議論されていました。
結論から言うと、即効性のあるものと、続けないと意味が無いものがあります。
今から100年以上前ですと、抗生物質、解熱鎮痛薬、ステロイド剤などは無かったので、あらゆる病気は漢方薬で治す必要がありました。
この中には、チフス、マラリア、赤痢などの急性の伝染病も含んでいます。
こういった、今すぐ命にかかわるような病気は、即効性が求められます。
このよな期待に答えるため、そのころの漢方薬は飲む量も多く、作用の強いものを多く使いました。
よく使われたのが、麻黄、附子、大黄、石膏などでそれもかなり大量を使いました。
このようにする事で、沢山の急性伝染病を治療していました。
そして、その効果は想像以上に良かったようです。
さて、時代は代わり、このような命にかかわるような急性の伝染病は、西洋医学の薬が使われるようになりました。
そうすると、漢方医学はどちらかといと日陰者扱いとなってしまい、西洋医学では治せないような慢性の病気を治療するようになりました。
慢性の病気を治療する場合、その症状を抑える標治と、病気の根本を治療する本治があります。
標治に関しては、即効性という意味において、やはり西洋医学のお薬にかないませんでした。
そこで、漢方薬は、殆どの場合、慢性病の本治、つまり体質改善として使われるようになりました。
このような事から、漢方薬は即効性が無いと思われています。
実際、漢方薬で体質改善をする場合は、即効性は期待できません。
ですので、「漢方薬は即効性が無い」というのは半分はあたっていると言えます。

中医学の歴史9 西洋医学の台頭

中国にも日本にも西洋医学の理論、診断、治療が入ってくると、どうしても西洋医学の速効性という面ばかり注目されて、体質改善とか、副作用が少ないなどの中医学の利点はないがしろにされてしまいました。
この結果、西洋医学を学んだ者以外は医者にあらず、といった考えで中医学や漢方医学は否定されてしまいました。
中国では、幸いにも国民党時代がおわり、毛沢東が率いる中国共産党が革命勝利しました。
毛沢東のスローガンで、中医学は中国の宝とされ、めざましい中医学の復興をみました。
1950年代には、全国の各省に中医学院がおかれ、付属病院がおかれました。
現在では中国国民の中医学に対する意識も高まっていて、西洋医学の利点、中医学の利点をうまく使った治療をおこなっています。
これに対して日本では、漢方はいまだに正式な医学として認められていないと言っても良い状態です。
漢方専門の大学も病院もありません。
漢方をいくら勉強しても医者の資格はもらえません。
「西洋医学を学ばざるもの医師にあらず」の精神が今でも残されています。
また、漢方の効能効果も、西洋医学的な病名で記載されています。
新しい漢方薬の認可を受けるにも、西洋医学的な基準が適応されて、中医学の独自の辨証論治により体質によって使い分けるという基本理念は無視されてしまっています。
これではどんなに素晴らしい漢方薬でも、新しい認可を受けるのは困難です。
大変残念な事と言えます。

中医学の歴史8 日本漢方の問題点

日本は江戸時代の鎖国のため、中国の新しい理論が伝わらなかっため、中医学は「漢方医学」として日本独自の進化をしました。
急性の感染症を治療するには古方派の考えはすぐれていました。
これに対して慢性病の治療は、臓腑辨証により、体質改善していく方法がすぐれています。
古方派の台頭により、後世派の考えがすたれてしまい、臓腑辨証という考え方が日本ではあまり用いられなくなりました。
代わりに考案されたのが腹診です。
お腹の状態を見る事により、どの部分に問題があるかを判断する方法です。
腹診は直接に処方を決めるとても良い方法ですが、やはり問診を中心とした臓腑辨証の考え方が必要と思います。
また、使われる処方も、江戸時代の鎖国や中国との国交が無かった事などが影響して、清朝以降に考えられた処方は日本漢方では殆ど使われていません。
傷寒論や金匱要略の時代の処方が多く、現代中医学の基本処方すら漢方医学では使われていません。

中医学の歴史7 温病

感染性の急性病の治療には、日本では傷寒論を応用していきました。
感染性の急性病には、大きく分けて2種類あります。
一つは、寒気を強く起こす「傷寒」という種類。
もう一つは熱が強い「温病」です。
傷寒論はこのうち「傷寒」の治療には優れていますが、「温病」の治療の解説は粗略でした。
そこで中国では、金元の後期から明、清の時代にかけて、傷寒論から分かれて、温病の治療が大いに発展しました。
これによって中国の急性伝染病、特に疫病の治療は長足の発展をしました。
ところが、江戸時代の鎖国のため、残念ながらこれらの温病の理論は日本には伝えられませんでした。
この為、日本では温病も傷寒論の処方を応用して治療されていました。

中医学の歴史6 疫病の治療

さて、ここから日本と中国の漢方では大きな違いが生まれていきます。

まず、日本ではどうだったかというと、後世派の生ぬるい治療に嫌気をさして傷寒論の処方で疫病を治そうという一派が生まれました。
これが古方派という人たちです。
この時はまだ抗生物質が無かったため、命にかかわる急性病は最優先に治療されるべきでした。
こういった急性病は「病毒」が原因で、体質は関係ないと考えました。
毒が去れば病気は自然に治る、それで治らない場合はそれは天命だと考えました。
「古方の一時殺し、後世のなぶり殺し」と言われるように、古方派の人たちは体力が消耗する前に強い薬で一気に病気を攻めました。
この方法は急性病を治療するには今でも正しい方法と言えます。
古方派の治療方法は少々荒治療でしたが治療効果が良かったので、多くの人に支持されて、いつのまにか後世派は陰の薄い存在になってしまいました。

これに対して中国では、病気の治療において、急性病は去邪を主にし、慢性病は臓腑辨証を行うという考えたが普通でした。
日本のように後世派と古方派の対立というような事は無かったので、どちらの考えも発展していきました。

中医学の歴史5 金元4大家

金元の時代になると、中医学はさらに発達して、金元四大家という人たちが新しい理論をくりひろげて行きました。
特にその中の李東垣と朱丹渓の本は日本にも伝えられ朱李医学として日本でも広く用いられていました。
日本の曲直瀬道三などの本を見て見ると、日本式の漢方ではなく、全く今の中医学と同じように辨証論治をして治療していました。
曲直瀬道三などのように、朱李医学を基礎にして臓腑辨証を主に行って治療する流派を後世派と呼びます。
臓腑辨証は、不調の原因を考え、体質改善をしていくには非常に良い方法です。
ただ、疫病などの治療にはあまり適していません。
疫病は病気の進行が早く、一刻の猶予もありません。
とても臓腑辨証などで体質改善をしている時間は無いのです。

中医学の歴史4 宋改

さて、宋の時代は、医学が非常に発達した時代です。
このころ、新しい理論の発達だけでなくて、過去の古い書物を整理してまとめるという膨大な作業が行われました。
これを宋改といいます。
宋以前に書かれた殆どの書物が、ここで書き改められました。
宋改があったからこそ、宋以前の沢山の医学書が今残っていると考えられます。
ただ、残念な事に宋改によって多くの部分が書き直され、どこまでが原書の内容なのか、どこからが宋改によるものか解らなくなってしまいました。
傷寒論も宋改をうけました。
ですので、傷寒論の原文がいったいどのようなものだったのか今では誰にも解らない状態です。
この頃につくられた「太平聖恵方」は、殆どすべての病気を網羅している総合治療大系とも言えるものです。

中医学の歴史3 隨・唐の時代

傷寒論は後漢の時代に書かれたと考えられます。
今からちょうど2000年前くらいの書物になります。

さて、その後、隨の時代に『諸病源候論』という書物が書かれました。
これを見てみてると、病気がおこる原因を詳しく分析しています。
ちょうど病理学の本と言えます。
ただ、これだけ深く病理を掘り下げておきながら肝腎の治療方法については殆ど触れられていません。
とても残念な事です。

唐に時代になると「千金方」と「外台秘要」という書物が作られました。
この2は、簡単に言えば処方集です。
お医者さんがいつも持っている治療ガイドのようなものです。
内容としては、傷寒論、金匱要略の不足を補うもので、非常に広範囲な病気について語られています。
傷寒論、金匱要略は有用性が高いものでしたが、あまりに簡潔すぎて不足の部分が多かったと思われます。
千金方は臓腑ごとに病気をまとめ、辨証論治の基礎を作りました。
外台秘要は病名ごとに病気をまとめ、弁病論治の基礎を作りました。
隨・唐の時代は日本とも国交が深かったので、これらの書物もみな日本に伝わったと考えられます。

中医学の歴史2 傷寒論

黄帝内経は、中医学の理論をうちたてた素晴らしい本ですが少し足りない部分もありました。
それは「命にかかわる感染症」の治療です。
黄帝内経の治療は鍼灸を中心としたものでしたから、体の調節とか慢性病の治療には非常にすぐれていましたが当時流行した疫病などの治療にはあまり効果がありませんでした。
そこで登場したのが「傷寒論」という書物です。
傷寒論は実用書としてかかれています。
傷寒という病気(恐らくチフスなどの伝染病)にかかった場合の治療方法が誰にでも解るように「こういう場合はこうしなさい」という箇条書き風にかかれています。
この中には理論らしい理論は記載されていません。
しかし、ある程度読み込むと、記載されていないだけで、実に多くの理論や経験が含まれている事が解ります。
黄帝内経に比べれば極めて短い書物ですが、こちにも深く研究すると一生かかっても追いつかない内容です。
そこに書かれている多くの処方は今でも多用されています。
みなさんがよく知っている葛根湯とか小柴胡湯などはここに書かれています。
また傷寒論とセットで金匱要略という書物も書かれました。
こちらは慢性病の治療のガイドブックのような存在です。
ただ、その中の処方は簡潔で無駄がなく、かつ治療効果の良いもので、今でも処方のお手本にされています。

所で、傷寒論は日本にも渡り、沢山の写本が見つかっています。
その中には傷寒論の原本ではないか?と思われるものもあります。
ですので、傷寒論が日本に伝わったのはかなり早い時期ではないかと思われます。

中医学の歴史1 黄帝内経

今回より、何回かに分けて、漢方の歴史についてお話ししたいと思います。
昔の人がどのうにして、病気と向いあって来たか。
また、今の日本では「中国式の中医学」と「日本式の漢方」の2つの流れがあります。
この違いはいつ頃から、何故うまれたか、またどのような違いがあるかに付いてお話しします。

中医学の一番古い書物は何かは今では解っていません。
ただ、春秋戦国時代にかかれたと思われる「黄帝内経 こうていだいけい」という書物が現代中医学の基礎になっています。
黄帝内経は、特に臓腑と経絡について詳しく書かれています。
特に、陰陽五行説という中国古来からある東洋哲学の影響を強くうけています。
この黄帝内経は、後から書き加えられた部分が多くあり、どこまでが原書かは今となっては解りません。
ただ、臓腑の生理や病理が非常に詳しく書かれていて、今でもとても参考になる書物です。
2000年以上前の人が、このように緻密に体内のしくみを考えていたかと思うと頭が下がる思いです。

黄帝内経は漢方薬を使った治療については殆ど書かれていません。
鍼灸を使った治療については非常に詳しくかかれています。
この事から、古代は鍼灸による治療が盛んだったと考えられます。
(特に中国の北方では)
養命酒の宣伝でも「女性は7の倍数、男性は8の倍数によって支配されている」と引用しています。
7は奇数で、陽。8は偶数で陰です。
ですから、陰である女性は陽である7でコントロールされていて、陽である男性は8という陰数でコントロールされています。
このあたりの陰と陽との相互依存、相互対立はとても面白い理論です。
黄帝内経を研究するたげで一生あっても足りないと言われています。
これは一人の人の作品ではなく、非常に多くの人が協力して作ったという事です。
勿論、作者が誰という事も解ってはいません。
この頃の本は竹簡といって竹にかかれていました。
こんな古い本が今まで伝わっているという事自体、驚きを隠せませんが今でも第一級の実用書としての価値があることは信じられません。
「2000年前に宇宙人が地球にやって来て作った」という説も思わず信じてしまいそうな内容の本です。

血の生成

中医学的には、血は何処でどのように作られるのでしょうか?
食べた物は胃に入り、脾で精微物質として吸収されます。
それが上にのぼり肺近くまで運ばれます。
そこで、宗気とまざり赤く変化して、血となります。
宗気は肺で呼吸した大気と、脾からの精微物質で出来ています。
ですから、精微物質は、肺気とまざり宗気になるものと、宗気とまざり血となるものがある訳です。
さて、ここで大切な事は、血の生成には消化吸収した精微物質だけでなく、宗気が必要だという事です。
宗気の生成には肺から呼吸した大気が必要です。
つまり、血の生成には大気が必要という事です。
この事は、ただ必要なものを食べているだけではなかなか血は増えないという事です。
良い血を作るには宗気の生成をよくする必要があります。
その為には、肺の働きを強化します。
つまり、適度な運動が欠かせないという事です。
結局の所、体に必要なタンパク質や鉄分を充分に補い、頑張って必要な運動もしていく事が大切になります。

5つの味

生薬の味は。「酸・苦・甘・辛・鹹」の5つに分けられます。
鹹は「しおからい」つまり「しょっぱい」の意味です。
日本語の読みは「かん」、中国語は「Xian2 しぇん 2声」です。
日本ではあまり使われない漢字ですが、中国ではしょっちゅう使われます。
このあたりは文化の違いを感じます。
酸っぱい味の生薬、たとえば山茱萸などは肝との関係が強くなります。
苦い味の生薬は、例えば黄連は心に働く生薬となります。
甘い味の甘草や膠飴は脾、辛い味の麻黄は肺、鹹味のは腎との関係が強くなります。
ただ、これは無理矢理にこじつけた部分も多くあります。
例えば苦み。少量の苦みは苦味健胃薬といって、胃腸の働きを活発にします。
たとえばアロエとか、黄柏などです。
辛いカレーなどは、肺の機能を高め発汗させるだけでなく心にも働きますし、胃腸を刺激する作用もあります。
甘い味は、エネルギー源になりますが、とりすぎれば痰湿のもとになり胃腸を傷つけます。
鹹味の生薬はあまり多くはありません。
水蛭などは鹹味ですが、必ずしも補腎作用ではありません。
補腎薬の一部は、塩水で服用すると腎まで届くという考え方がありました。
しかし、塩分はむしろ腎の負担になります。
一般的には、五味と臓腑の関係は、適量ならその臓を丈夫にしますが、採りすぎるとその臓を傷つける事になります。
テレビなどで○○○○が、○○○○に良いなどいわれて大量にとる人があります。
適量を守る事は大切です。

肝を補う

気の流れを調整しているのが肝という事はおわかり頂けたと思います。
では、肝の働きを良くするのにはどうしたら良いでしょうか?
中医の用語では「肝の用は陽、肝の体は陰」といいます。
肝の用とは、肝の働きの意味です。
肝の体とは、肝を作っている物質、つまり本体の意味です。
肝は木に例えられます。
木は生きている間は水分を多く含んでいて、強い風が吹いても、柔らかく対処できて折れる事はありません。
しかし、水分を失うと折れやすくなります。
肝の構成物質は血と陰液です。
この2つが肝の中にたっぷりあると、肝は柔らかい状態を保っていけます。
ですから、肝にとって陰血はとても大切なものです。
肝の陰血を補う最も有名なものが「杞菊地黄丸」と「婦宝当帰膠」です。
前者はやや陰を補い、後者はやや血を補う点に違いがあります。

気の流れと肝

気にも色々な種類があります。
それらの気の流れをコントロールしているのは何処でしょうか?
どの臓腑にも、それぞれ固有の気がありますから、それぞれの臓腑がそれぞれの気を管理していると言う事は出来ます。
しかし、気の流れの大本締めみたいな役割をしているのが肝です。
この作用を疏肝作用(そかんさよう)といっています。
肝の働きが悪くなって、気の流れが悪くなる場合はおおまかに2種類の状態が考えれます。
気の量がすくなくて、流れ不足になる場合。気も血も、量が少なくなれば、当然に流れが悪くなります。
このような状態は肝気虚となります。
ただし、気を作る作用は脾とか肺とかが関係していますので、これらの臓腑も考えて治療します。
気の量が多すぎると、渋滞します。
車の渋滞と同じです。
気の流れ道の中で、つまりやすい部分があります。
道路でも渋滞しやすい道路があるのと同じです。
つまりやすい部分としては、目、のど、胸、脇、鼠径部などがあります。
この部分の違和感は気滞と関係する事が多いです。
これらの渋滞が長く続く続くと、化熱といって、熱をもってくる事があります。
また、痰湿とむすびついて、痰核を作る事もあります。
同じ気滞でも、気虚ベースのものと、気実ベースのものでは治療方法が違うので要注意です。

薬機法の問題点

医薬品の製造、管理、販売などについて決めた法律を薬機法と言います。
今の薬機法は、西洋医学が中心で、漢方については殆ど考慮されていません。
このため、漢方薬に対しても西洋薬と同じ基準があてはめられてしまいます。
西洋医学と東洋医学では、診断も違いますし使い方も違います。
根本的に考え方が全くちがう医学体系です。
これに対して同じ法律で対処すると色々な問題が出て来ます。
漢方のお店をやっていて、経験上できるだけ早く改正してもらいたい問題点をあげてみます。

1.同じものが食品だったり、医薬品だったり。
まったく同じものでも「はとむぎ」として食品として扱われ、また「ヨクイニン」と言われて医薬品として扱われる事があります。
食品の場合は、効能・効果を表示する事は出来ませんが、用法用量の制限もありません。
医薬品の場合は、用法用量の制限が出てきます。
食品としては無制限に摂取出来るのに、医薬品としては量の制限があるのは矛盾しています。
はとむぎ以外に、どくだみ、すいかずら、シソ葉、薄荷葉、甘草、なつめ、山査子など沢山のものがあります。
どちらかに統一すべきと思います。

2.作用の強いものが医薬品とは限らない
当帰、芍薬など比較的おだやかの物が医薬品で、水蛭、三稜、莪朮、田七など比較的作用が強い物が健康食品として扱われています。
比較的作用の強いものは、体質にあわせて飲む必要があります。
この場合、専門のお店などでよく相談すべきで、食品として扱うのはどうかと思われます。
この点は、中国の中医師に話すと、皆、信じられないと言います。

3.効能効果が古すぎる、あるいは日本式
多数の漢方の効能効果が決められたのは、中医学が普及する前です。
主に、日本漢方の大塚敬節先生や矢数道明先生などの経験を参考にして作られました。
この頃の漢方医学は、経験医学で、経験の蓄積で成り立っています。
今は中国からの中医学が普及しています。
中医学は、学問としての理論体系があります。
同じ漢方でも考え方は全然違います。
私は日本式の漢方を否定する気はありませんが、もう少し中医学に則した効能効果も表記が認められると良いと思います。

4.体質に応じて加減しにくい
漢方は本来は体質に応じて量を加減するものです。
今の薬事法は、用法用量を守ってという事で、誰でも同じ量を服用するように指導しています。
漢方薬の場合は、もう少し容量表記に幅をもたせる方が良いと思われます。

5.新しい漢方の認可について
昔認可された漢方をのぞいて、新しく漢方薬としての認可うけるには西洋薬と同じ基準が適応されてしまいます。
動物実験をはじめ、病院の臨床データなど、莫大な費用がかかってしまいます。
中国には素晴らしい漢方薬が沢山あります。
安全と解っている生薬の組み合わせが少し変わるだけで、全く新しい医薬品としての認可が必要というのもどうかなと思います。
もう少し簡単に認可がとれるようにして頂けると日本国民にとって有益と思います。

日本において、漢方が少しでも普及するように、もう少し漢方薬に配慮した薬機法が出来ると良いなと強く思っています。

病名漢方

漢方薬を西洋医学の病名で処方する事があります。
これを「病名漢方」と言います。
病名漢方は、漢方の知識が全くなくても、西洋医学を知っていれば漢方を使えるので多用されがちです。
しかし、これは正しい漢方の方法ではありません。
漢方薬は病名以外に、その人の体質や、状態を重視します。
時に周りの環境とか季節までも考慮します。
病名が同じでも、使う漢方薬は一人一人の体質や状態によって違ってきます。
例えば、風邪の場合。
寒気が強い場合は暖める作用のある処方を使います。
逆に熱寒がつよく、喉が渇くなどの場合は冷やす作用のものを使います。
これを使い間違えると、症状は悪化します。
また同じ暖める作用のものでも、気虚といってエネルギー不足の場合は麻黄などが沢山含まれたものを飲むと体力が消耗してしまいます。
このように病名だけでなく体質を考えて漢方を使うと効き目が良くなるだけでなく、副作用を予防する事が出来ます。
これを同病異治といいます。
同じ病気でも体質や状態によって違う治療を行うという事です。
西洋医学でも、最近は遺伝子配列を調べて、あらかじめ薬の効き目や副作用を予測する方法が開発されつつあります。
この考え方は漢方の考え方に近いものです。

これに対して異病同治という考えがあります。
例えば、中医学では血液の汚れの淤血や、汚れた水、脂、繊維が原因の痰湿という病邪があります。
淤血によって引き起こされた病気であれば、西洋医学の病名が何であれ、淤血を綺麗にする漢方を使います。
これを異病同治といいます。
異病同時は西洋医学でもよく用いられている手法です。

今日は神の話です。
神といっても、天国の神様ではありません。
神の意味に一番近い言葉は、意識かも知れません。
つまり、神があるとは意識がある、神が無いとは意識が無いという意味です。
中医用語では有神、無神といいます。
無神はただ単に、眠っているとか気を失っているという事ではなく、昏睡状態に近い場合で生命自体が危険な状態です。
意識は大脳の働きですが、中医学では心の一部です。
つまり心に神がすんでいるのです。

心は神の住み家です。
もし家がしっかりしていると、神は安心して家にいます。
しかし、恐怖とか強いストレスをうけると、心は揺さぶられます。
中にすんでいる神は、びっくりして家から飛び出します。
この時に、何事もなければ、やがて神は心にもどります。
しかし、体内に色々な汚れ(邪気)があると、神が心に戻る前に、空き家になった心に入り込み住み着いてしまいます。
このような状態になると神は戻る場所を失ってしまい、あっちをウロウロ、こっちをウロウロとさまよい続けます。
このような時は、養神薬や安神薬だけでは不足で、心を占領している邪気をとりはらう事が大切です。

陽気について

陽気とは、体を暖める気です。
陽気が作られる場所は、腎と脾と考えられます。
食べたものは、脾で消化されて、栄養物質を腎に運びます。
腎はその栄養を燃やして熱をつくっています。
この関係は、竈と鍋に例えられます。
竈に火が無いと、鍋は煮えません。
鍋が煮えないと消化出来ません。
つまり腎陽が上にのぼり、脾陽となり消化をおこないます。
脾で消化された精微物質が腎に運ばれ燃料となります。
これを繰り返す事で生命の陽気が保たれていると考えられます。
この事から考えると、脾陽が不足の場合は腎陽を補う必要があります。
腎陽を補う場合は、燃料の供給、つまり脾の働きを良くする必要があります。
ですので、陽気を補う場合は、この関係をよくよく考えて漢方薬を使っていく事が大切です。

自律神経2

自律神経は、「交感神経」と「副交感神経」に分かれます。
さらに細かく分かれるのですが、中医学的にはそこまで細かく分けて考える必要はありません。

人間も動物です。
餌を食べるためには、狩りに出るとか、畑仕事をするとか、活動しないと行けません。
この時に働くのが交感神経です。
精神的にはやや緊張状態になります。
活動にむいた状態を作りだします。
その分、胃腸の働きは少しお休み状態になります。
興奮してばくばく食べる人もありますが、一般的には交感神経が働くと食欲はなくなります。
悩みがあっても同じです。

副交感神経は、獲物を食べ終わって、お腹が一杯になった状態の時に働きます。
精神的にはゆったりとして、眠くなります。
脳に行く血流は少なくなって、その分は胃腸に血液を集中させて消化を助けます。
「食てすぐ寝ると牛になる」などと言う人がありますが、そんな事はありません。
勿論、食事の時間が夜遅いと太りやすいという事はあります。
ただ、食後はあまり運動しないでくつろぐ事が大切です。

さて、中医学にあてはめると、交感神経は肝、副交感神経は脾に属します。
脾については、前にお話ししたので、今回は省略します。
交感神経は肝の気、肝気と考えます。
肝気は働きすぎると、つまって流れが悪くなります。
また働きが弱すぎると流れなくなります。
どっちにしても流れなくなります。
肝気がスムースに流れなくなると、不足した場合は「とにかくやる気がしない」など鬱の状態になります。
流れが強くなりすぎると、イライラ、カッカとして、癇癪をおこします。
ですから、肝気の強さは適当で、スムースに流れる事が大切なのです。

自律神経1

中医学の気の働きは、現代医学の自律神経も含まれています。
自律神経失調症という言葉はよく出て来ますよね。
なんとなく体が不調な、「あれ」です。
ただ、意外と正しく理解されていないケースもあるようです。

神経には、体から中枢(脳)に伝わる上行神経と、中枢から体に向かう下行神経があります。

上行神経は知覚神経です。

下行神経は、運動神経と自律神経に分けられます。
運動神経は、さらに脳から筋肉に行く錐体路と、脳核や小脳などから筋肉に行く錐体外路に分けられます。
錐体路は自分の考えで筋肉を動かしています。
これに対して錐体外路は無意識で筋肉の調整をしている部分です。
この錐体外路系の障害があると、手足の震えや、運動障害がおこります。
この状態を中医学では「肝風内動」といいます。
肝風内動については、また別な項目をつくって詳しく説明したいと思っています。

さて、下行神経のうちの一つ、自律神経です。
これは、脳の下の部分の視床下部という所が中枢部です。
ですから、視床下部が自律神経をコントロールしているのです。
視床下部は、自律神経以外にも脳下垂体をコントロールしています。
脳下垂体は、全身のホルモンをコントロールしています。
....なかなか複雑ですね。
ですから、視床下部はとても忙しいのです。
大昔、平和な時代なら、ストレスも少なくて、視床下部の仕事も少なかったでしょう。
でも、今みたいなストレスフルの時代になると、視床下部君は、本当に年中無休でヘトヘトです。(~_~;)

さて、次回は自律神経をもう少し詳しくみていきましょう。

肝臓というと、現代医学では代謝の中心センターみたいなものです。
いろいろな毒素が分解されたり、体に必要なものが合成されたり。
でも、中医学の肝の働きとしてはこういった毒素を分解する働きとか、体に必要なものを合成するという事は考えられていません。
こういった働きは、原則としては脾の働きと考えます。
では、中医学の肝とはいったいどんな事をしているのでしょうか?
肝の働きを一言で言えば「気の流れを調整している」という事です。
あともう一つは「あまった血を貯蔵している」。
まず気の流れを理解するには、気というものを理解する必要があります。
気って、わかる気がするけども、解らない気もする。
実は中医学の中でも一番難しい。
何故なら目に見えないし、色々な種類があるし、人によっても言う事が違ったりします。
中医学の古典から気の部分だけを抜き出していくと、おそらく百科事典くらいの本になってしまうでしょう。
しかし、この「気」という概念があるからこそ、中医学は今でも現代医学よりも優れている部分が多くあるのです。
次回は、ちょっとだけ気の話をして、また肝に戻って来ましょう。

虚実からみた健脾と消導

胃腸を丈夫にする健脾と、食べたものを消化する消導。
臨床的にはこの2つは明確に区別するのは難しい事が多いのです。
ただ、中医学(中国の漢方)の理論では明確に区別されます。
その違いを一言で言えば、虚実の違いです。
中医学では虚とは、体に必要な物やエネルギーが足りない事。つまり正気の不足。
実とは体にとって必要ない、あるいは毒になるものが多い。つまり邪気が実している。
虚は補い、実は余分なものを取る治療が必要です。
健脾は脾の気を補う方法。消導は、胃腸の実をとる方法となります。
虚と実では、天と地くらいの違いがあるのですが、また虚が原因で実が出来たり、実が原因で虚になったりと、お互いに深い関係もあります。
つまり、胃腸が弱いから食滞がたまり、食滞があると胃腸が悪くなる。
鶏と卵の関係に似ています。
このあたりが中医学の面白さです。

さて、この虚実ですが、日本式の漢方だと、全然違う意味になってしまいます。
虚証とは体力がなく、疲れやすい、やせ気味の人です。
実証とは、体力があり、疲れにくく、体もがっちりとした人です。
私が漢方を勉強し始めた頃はまだ中医学が日本では殆どなくて、みな日本漢方を勉強していました。
そしていつも不思議におもったのは、虚証の人は病気しやすいでしょうけども、実証の人はあまり病気にならないのでは?という事です。
体力はあるし、疲れにくい、体もしっかりした人が、そんなに簡単に病気になるのかな?、という疑問がありました。
そうなら虚証の人向きの漢方薬の方が実証向きの人の漢方よりも多いはずです。
しかし、実際はほぼ半分くらいです。
その点、中医学の方が、実は余分なものがある状態、そして虚は必要なものが足りないという理論は明確です。
そして、多くの場合、一人の人間に虚と実が同時に存在します。
日本式の場合は実証の人は虚証ではないし、虚証の人は実証ではあり得ません。
ですから、虚証向きの処方を実証の人が飲む事は無いし、ましてその2つを併用する事などあり得ません。
しかし、中医学では虚と実を同時に治療する事が多くなります。
中医学に出会って、初めて、日本漢方における虚実の矛盾が払拭されました。

脾についてはここまでとして、次回からは気と肝について考えてみたいと思います。

食滞 しょくたい

食滞というのは、文字通り食べたものが滞る状態。
では、何故食滞がおこるかというと、消化能力以上のものを食べた場合に食滞がおこります。
当たり前の話ですが、実はそんなに単純にいかないのです。
消化能力といっても、個人差があります。季節差もあります。時間の差もあります。気温、疲れ具合、体調によっても左右されます。
また、食べる種類によっても差があります。
ある人は甘い物の消化力はつよくても、お酒は駄目。
ある人はお酒は得意でも、生ものは駄目とか。
日頃から、自分の消化能力を把握しておく事が食滞を防ぐ一番の方法です。

温度について言えば、脂物は胃腸の温度が下がると吸収が悪くなります。
ですから脂っこいものを食べる時は冷たいものは気をつけます。
そうは言ってもビールと焼き肉、美味しいですよね。
その場合はビールを口の中で温めるように、ちびちびと飲むと良いでしょう。
えっ、せこい飲み方? 健康の為ですから、そのぐらい我慢して下さいね。
タンパク質は生ですと消化が悪く、長く煮込むと消化がよくなります。
ですから胃腸が弱い人は刺身などよりシチューのようなものが適しています。

では、体質的に消化能力が低い人はどうすれば良いでしょうか?
一つは、健脾の漢方薬を続け、胃腸を強化する方法です。
これは、速効性はありませんが、根本治療に近い、とても良い方法です。
また、消導薬は、服用すれば一時的に消化能力がUPします。
ちょっとヤバイかなという場合とか、風邪などで消化能力が落ちている場合に消導薬を利用するのはお勧めです。

食滞がたまってくると、お腹が張る、口がまずい、口臭、げっぷ、ガスなどがおこります。
また、舌の苔が厚くなってきます。
宿便なども食滞の一部です。

消導薬と健脾薬を上手に使って、食滞にならないように注意しましょう。

消導薬

健脾と消導の区別が訳が解らなくなって来ましたね。
食後はだれでも胃がふくれます。
これがある時間たつと、また平らになります。
平らにならないポッコリお腹の人は別です。(~_~;)
これは、食べたものが消えて、下に導かれたためです。
この作用が「消導」です。
消導は脾の働きの一部です。
ですで、健脾薬があれば消導薬は消導薬は要らないのではと思われます。
しかし、中医学では健脾薬と消導薬は使い分けています。

体質的に胃腸が弱く、常々食欲がない、やせて体力が無い。
このような体質の人は脾虚といいます。
このような場合は、消導薬でなくて健脾薬を使います。
健脾薬は胃腸を丈夫にする働きがありますが、消導薬は一時的に消化を助けますが、胃腸を丈夫にする働きはありません。

食べ過ぎ、飲み過ぎで胃が苦しい...こんな時は消導薬の出番になります。
あまり胃腸の弱い人で少し食べても胃がもたれる。
このような場合は胃腸を丈夫にする健脾薬と消化を助ける消導薬を同時につかいます。

消導薬の代表は山査子、神麹、麦芽、蒼朮などです。
これらのものには酵素が沢山ふくまれて、食べたものを分解しやすくします。
また、胃液や胆汁、膵液などの分泌をよくしたり、胃腸の蠕動運動を活発にします。
ただし消導薬の作用は一時的で、続けて飲んでいて胃腸が丈夫になるという事はあまりありません。
ですので、胃腸が弱い場合は健脾と消導をうまく使い分ける事が必要です。
単なる暴飲暴食の場合は消導だけで健脾は必要ありません。

さて、次回は、消導薬とは切っても切れない、食滞についてお話しします。

健脾薬

脾の働きを良くする事を健脾と言い、その作用を持つ漢方薬を健脾薬と言います。
健脾薬の代表は、人参、白朮、茯苓などです。
人参はいわゆる朝鮮人参で、野菜の人参ではありません。
野菜の人参で胃腸が丈夫になるなら、とっても安上がりで良いのですが。

人参は昔から高価な薬の代表でした。
今でも野生の人参はなかなか採れないため、とても高価です。
また人参は生長がとても遅いので、薬になるまで何年もかかります。
何十年ものの野生の人参は起死回生の効果があるとして、今でもびっくりするくりい高価で取引されています。
こんなものはとても飲めないですが、栽培のもので500gで1万円から2万円くらいのものでも充分に健脾の高価が期待出来ます。
使うのは2gからせいぜい5gくらいですから、1日分としてはそんなに高くはありません。

さて、先ほどの人参、白朮、茯苓とさらに甘草を加えたものが四君子湯です。
四君子湯は健脾薬の基本処方です。
ただ、胃腸を丈夫にする事と、消化を助ける事は、中医学では少し別に考える事があります。
この場合、胃腸を丈夫にするのは「健脾」で、消化を助けるのが「消導」といいます。
先ほどの健脾薬の代表方剤、四君子湯。これは健脾の力はあっても消導の力はあまりありません。
さてさて、少し混乱してきましたね。
次回で、もう少し詳しくお話しいたします。

脾の働き

脾、というと「脾臓」。
脾臓って何処だっけ?何の働き?っていう方も多いのでは。
現代医学の脾臓は、リンパ球を成熟させたり、いらなくなった血液を壊す働きといわれています。
貧血がひどい場合は脾臓を摘出したりしますから、無くなっても命にかかわる事はありません。
これに対して東洋医学、つまり中医学での脾臓は、なくなったらとても生きていられません。
中医学では脾臓は胃腸の消化吸収の機能を代表した臓器です。
じゃあ、胃腸なの?というと、そうでもありません。
難しいですね。
例えば膵臓。ここからは膵液が出て、色々なものの消化や吸収を助けます。
肝臓からは胆汁が出て、脂の吸収を助けます。
こんなものも脾臓の一部と考えます。
勿論、小腸などの吸収する力は脾臓の一部です。
私なりに解説すると、脾とは「食べたものを吸収して体に必要なものに変化させ、必要な場所に運ぶ機能を有するとされる架空の臓器」という事になります。
架空なので、全く実体が無いかというと、そうでもなくて、先ほど述べたような膵臓とか、肝臓の一部とか、小腸とか...
あまり難しく考えないで、なんとなく漠然と理解するのが中医学をマスターするこつです。